こんにちは!高松市の高田歯科口腔外科医院院長の高田です。
お子様の歯並びについて、「少しガタガタしてきたけれど、矯正はいつから始めるのが良いのだろう?」「そもそも、どうして歯並びが悪くなるの?」といったご相談を保護者の方からよくお受けします。
多くの方が「歯並びは遺伝だから仕方がない」とお考えかもしれません。しかし、近年の研究では、遺伝だけでなく、お子様が日頃無意識に行っている「癖(くせ)」が、歯並びや顎の成長に大きな影響を与えていることが分かってきました。
今回ご紹介する「マイオブレース」は、従来のワイヤーを使った歯列矯正とは全く異なるアプローチで、この歯並びを悪くする根本的な原因に働きかけ、お子様の健やかな顔貌の成長を促す治療システムです。単に歯を並べるだけでなく、呼吸法などのトレーニングも行う、その画期的な治療法について詳しくお話ししましょう。
歯並びを悪くする「根本的な原因」とは?
顎の骨が正しく成長し、歯がきれいに並ぶためには、お口周りの筋肉が正しく機能していることが不可欠です。しかし、以下のような「口腔筋機能癖(こうくうきんきのうへき)」があると、筋肉のバランスが崩れ、顎の成長を妨げたり、歯を不適切な位置に押しやったりしてしまいます。
- 口呼吸(くちこきゅう) 鼻ではなく口で呼吸する癖です。常に口が開いている(お口ポカン)ため、唇の筋肉が緩み、舌の位置が下がり、顎の正常な発育が妨げられます。出っ歯や狭い歯列アーチの原因となります。
- 間違った舌の位置(低位舌:ていいぜつ) 本来、舌の先は上顎の少し手前(スポットと呼ばれます)にあり、舌全体が上顎にぴったりとついているのが正しい位置です。舌が下顎に落ち込んでいると、上顎を内側から広げる力がかからず、歯が並ぶスペースが不足してしまいます。
- 異常な飲み込みの癖(異常嚥下癖:いじょうえんげへき) 飲み込むときに、舌で前歯を押してしまう癖です。一日に何百回と繰り返されるこの動きが、出っ歯(上顎前突)や、奥歯で噛んでも前歯が閉じない(開咬)といった歯並びの原因になります。
これらの癖は、歯並びだけでなく、アレルギー性鼻炎の悪化、いびき、睡眠の質の低下、姿勢の悪化など、全身の健康にも影響を及ぼすことが知られています。
マイオブレース治療の2つの柱
マイオブレースは、この根本原因である「口腔筋機能癖」を改善するために、2つのアプローチを組み合わせて行います。
- マウスピース型装置(マイオブレース)の装着 日中1〜2時間と就寝時に、シリコン製の柔らかいマウスピースを装着します。この装置には、以下のような機能があります。
- 歯並びの誘導:歯が正しい位置に並ぶよう、優しくガイドします。
- 筋機能の訓練:装着することで、自然と口を閉じ、鼻で呼吸し、舌を正しい位置に置くことを促します。唇や頬の筋肉の過度な働きを抑制します。
ワイヤー矯正のように24時間装着する必要がなく、取り外しが可能なため、お子様への負担が少ないのが特徴です。
- 専門的なトレーニング(アクティビティ)の実践 ここがマイオブレース治療の最も重要なポイントであり、従来の矯正治療との大きな違いです。 装置を装着するだけでなく、**正しいお口の筋肉の使い方を体に覚えさせるための専門的なトレーニング(アクティビティ)**を毎日ご自宅で行っていただきます。これは、いわば「お口の筋トレ」です。
当院では、専門のトレーニングを受けたスタッフがお子様一人ひとりの状態に合わせて、楽しく続けられるように指導します。
- 呼吸のトレーニング 口を閉じて、意識的に鼻で呼吸する練習です。腹式呼吸などを学び、口呼吸から鼻呼吸への転換を体に定着させます。
- 舌のトレーニング 舌を正しいスポットに置く練習や、舌を上顎に吸い上げる運動などを行い、舌の筋力を鍛えます。
- 飲み込みのトレーニング 水を飲む際などに、舌で歯を押さずに正しく飲み込む練習をします。これにより、異常嚥下癖を改善します。
- 唇のトレーニング 唇を閉じる筋肉を鍛えるトレーニングです。「お口ポカン」を防ぎ、自然に口元が引き締まるようになります。
これらのトレーニングを毎日2〜3分程度続けることで、無意識レベルで正しい呼吸や舌の使い方ができるようになり、後戻りの少ない、健康的な歯並びと顔貌の成長を促すことができるのです。
マイオブレースと従来の歯列矯正の違い
両者の違いを分かりやすくまとめてみましょう。
| マイオブレース | 従来の歯列矯正(ワイヤー矯正など) | |
| アプローチ | 歯並びを悪くする原因(癖)に働きかける | 乱れた歯並びという結果(症状)を改善する |
| 治療の目的 | 顎の健やかな成長を促し、歯が自然に並ぶスペースを作る | 歯を物理的な力で動かし、正しい位置に配列する |
| 対象年齢 | 顎が成長段階にある5歳~10歳頃が最も効果的 | 主に永久歯が生えそろった12歳以降 |
| 装置 | 取り外し可能なマウスピース | 固定式のブラケットとワイヤーが主流 |
| 装着時間 | 日中1~2時間+就寝時 | 原則24時間装着 |
| 抜歯の可能性 | 顎の成長を促すため、非抜歯の可能性が高い | 歯を並べるスペースが足りない場合、抜歯が必要になることがある |
| その他 | 呼吸や姿勢など全身の健康改善も期待できる | 歯並びの審美的な改善が主目的 |
簡単に言えば、従来の矯正が「魚を与える」治療だとすれば、マイオブレースは「魚の釣り方を教える」治療です。歯並びが悪くなる根本的な原因を取り除くことで、お子様自身が持つ「正しく成長する力」を最大限に引き出すことを目的としています。
まとめ:お子様の未来への投資として
マイオブレースは、単に歯並びをきれいにするだけの治療ではありません。口呼吸を鼻呼吸に改善し、正しい舌の使い方をマスターすることは、質の良い睡眠、集中力の向上、そして健やかな顔立ちの発育に繋がります。これは、お子様の生涯にわたる健康への、非常に価値のある投資と言えるでしょう。
もちろん、すべてのお子様にマイオブレースが適しているわけではありません。骨格的な問題が大きい場合や、永久歯が生えそろってからの治療では、従来の矯正治療の方が適しているケースもあります。
大切なのは、お子様のお口の状態を早期に正しく把握し、最適なタイミングで適切な治療を始めることです。「うちの子、お口ポカンが多いかも…」「いびきをかくのが気になる」といった些細なことでも構いません。それは、歯並びの乱れに繋がるサインかもしれません。
当院では、お子様一人ひとりの成長段階と癖を丁寧に見極め、マイオブレースが最適な治療法なのか、それとも他の方法が良いのかを総合的に判断いたします。お子様の歯並びや癖で気になることがございましたら、ぜひ一度お気軽にご相談ください。
