こんにちは!高松市の高田歯科口腔外科医院院長の高田です。
私たちは毎日、無意識のうちに呼吸を繰り返しています。しかし、その「呼吸の方法」が、お子様の歯並びや顎の成長、さらには全身の健康にまで深刻な影響を及ぼす可能性があることをご存知でしょうか。
「うちの子、テレビを見ている時や寝ている時に、いつもお口がポカンと開いている…」 もし、そうした様子に心当たりがあれば、それは単なる癖ではなく、お子様の健やかな成長を妨げるサインかもしれません。
今回は、見過ごされがちな「呼吸法」と「歯並び」の密接な関係、そしてそれが引き起こす様々な疾患のリスクについて警鐘を鳴らし、なぜ子どものうちから「MRC(マイオブレース)治療」などによって呼吸法を改善することが重要なのかを、詳しく解説いたします。
人間本来の正しい呼吸法「鼻呼吸」
まず、私たちの体にとって理想的な呼吸は「鼻呼吸」です。鼻には、私たちが生きていく上で非常に重要な機能が備わっています。
- 天然の高機能フィルター 鼻の粘膜や鼻毛は、外から吸い込んだ空気中のホコリ、細菌、ウイルス、アレルゲンなどを除去するフィルターの役割を果たします。また、冷たく乾いた空気を適度な温度と湿度に調整し、肺や気管への負担を和らげてくれます。
- 免疫機能の向上 鼻呼吸をすると、鼻腔で「一酸化窒素(NO)」が生成されます。この一酸化窒素には、血管を広げて血流を促進し、体内に取り込む酸素の量を増やす働きや、ウイルスや細菌の増殖を抑える働きがあります。
- 正しい舌の位置を維持する これが歯並びにおいて最も重要なポイントです。鼻呼吸をするためには、口を閉じる必要があります。口を閉じると、舌は自然と上顎の正しい位置(スポット)に収まります。この舌が上顎を内側から支える圧力が、上顎の骨をU字型のきれいなアーチに成長させるための重要な刺激となるのです。
問題となる「口呼吸」とその連鎖的リスク
一方、鼻ではなく口で呼吸する「口呼吸」が習慣化すると、ドミノ倒しのように様々な問題を引き起こします。
【歯並び・顔の骨格への影響】
口呼吸をするためには、常に口を開けていなければなりません。すると、次のような負の連鎖が起こります。
- 舌の位置が下がる(低位舌):口で呼吸の通り道を確保するため、舌が本来あるべき上顎から下顎へと落ち込んでしまいます。
- 上顎の成長が妨げられる:上顎を内側から広げるはずの舌の圧力がかからなくなるため、上顎の成長が不十分になります。
- 頬の筋肉の影響が強まる:外側からは頬の筋肉(頬筋)の圧力が常にかかっています。内側からの舌の支えがないため、この外からの圧力に負けてしまい、歯列が内側へどんどん狭められます。
- 結果として歯並びが悪くなる:上顎がU字型ではなく、狭いV字型に成長してしまうため、永久歯が生えてくるための十分なスペースが確保できません。その結果、歯が重なり合って生える「叢生(そうせい)」(ガタガタの歯並び)や、上の歯が下の歯に大きく被さる「過蓋咬合」、出っ歯などを引き起こします。
さらに、この状態が続くと、「アデノイド様顔貌」と呼ばれる特有の顔つき(面長で口元が締まりなく、下顎が後退した表情)になる傾向があります。
【歯並び以外の全身疾患への影響】
口呼吸のリスクは、お口の中だけに留まりません。
- 虫歯・歯周病リスクの増大 口内が常に乾燥するため、唾液による自浄作用や殺菌作用、歯の再石灰化作用が十分に働きません。これにより、虫歯菌や歯周病菌が繁殖しやすくなります。
- 免疫力の低下とアレルギーの悪化 鼻のフィルター機能を使えないため、ウイルスや細菌、アレルゲンが直接喉や気管に侵入します。これにより、風邪をひきやすくなる、扁桃腺が腫れやすくなる、アレルギー性鼻炎や喘息が悪化するといったリスクが高まります。
- 睡眠の質の低下 口呼吸は、いびきや「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」の原因となります。睡眠中に十分な酸素が脳や体に行き渡らないため、深い睡眠が得られません。日中の眠気や集中力の低下、学習能力の低下に繋がることも指摘されています。
- 姿勢の悪化 口呼吸で気道を確保しようとすると、無意識のうちに頭を前に突き出すような姿勢(猫背)になりがちです。これが、首や肩のこり、全身の歪みに繋がることもあります。
このように、口呼吸は「百害あって一利なし」と言えるほど、お子様の健やかな成長にとって深刻な問題なのです。
なぜ「子どものうちから」の改善が重要なのか
歯並びや骨格の成長は、幼少期にその基礎が作られます。顎の骨がまだ柔らかく、成長のポテンシャルが大きいこの時期に口呼吸の習慣を断ち切り、鼻呼吸を定着させることができれば、顎を正しい方向へ成長誘導することが可能です。
逆に、顎の成長が終わってしまった後からでは、狭くなった骨格を広げるのは非常に困難です。その場合、歯を並べるスペースを作るために健康な歯を抜歯したり、外科手術が必要になったりする可能性が高まります。
つまり、根本原因である呼吸法を改善するなら、顎の成長期である「子どものうち」が、最も効果的で、最も負担の少ないゴールデンタイムなのです。
呼吸法を改善する「MRC治療」という選択肢
そこで我々が推奨しているのが、「MRC(マイオブレース)治療」です。これは、従来の矯正治療のように歯に直接力をかけて動かすのではなく、専用のマウスピース装置と「アクティビティ」と呼ばれるお口のトレーニングを組み合わせることで、口呼吸や間違った舌の癖といった根本原因を改善し、お子様自身が持つ「正しく成長する力」を引き出す治療法です。
MRC治療を通じて、お子様は無意識レベルで鼻呼吸ができるようになり、舌を正しい位置に保つことを学びます。その結果として、顎は本来あるべき姿に成長し、歯は自然と正しい位置に並んでいくのです。
まとめ:お子様からのサインを見逃さないで
たかが「お口ポカン」、たかが「呼吸の癖」と軽視してはいけません。それは、お子様の体が発している重要なサインであり、将来の歯並びと全身の健康を左右する分岐点かもしれません。
歯並びの乱れは、単なる見た目の問題ではなく、様々な健康リスクが積み重なった「結果」として現れます。その根本にある原因、特に「口呼吸」の習慣に早期に気づき、介入してあげることが、保護者の方にできる最良のプレゼントの一つだと私たちは考えています。
もし、お子様の呼吸法や癖、歯並びに少しでも気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。専門的な視点から、お子様の健やかな未来のためのサポートをさせていただきます。
参考文献
①https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspd/47/1/47_59/_pdf/-char/ja
②https://www.kyu-dent.ac.jp/files/uploads/thesis_k674ronbun.pdf